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なぜ? コロナで野菜廃棄が急増、農家が「豊作貧乏」 に陥る理由 - ITmedia

 コロナ禍による外食業界の低迷は、食材を提供する農家にも悪影響を与えている。とりわけ、11月下旬からの野菜価格下落が著しく、スーパーの野菜価格に普段はそれほど敏感ではない筆者にとっても、「明らかに野菜が安くなった」と感じるほどだ。

 東京の大田市場の情報によると、野菜の卸売価格は、レタスや白菜といった葉物野菜を中心に前年比で30%〜50%程度安くなっている品目もある。野菜は安くなっているのだ。

値崩れした野菜は廃棄せざるを得ないのか? イメージ(写真提供:ゲッティイメージズ)

 今年4月に緊急事態宣言が発令されてからは、一時的に自宅で調理する機会が増加したことで需要が急増、供給が追いつかないことで白菜の卸売価格は例年の3倍近くで取り引きされる場面もあった。7月と8月にも長雨や猛暑の影響で野菜の値上がり現象が起きていた。

 しかし、11月に入ってから状況は一変し、野菜類の値崩れが発生し始める。今年は台風が上陸ゼロであったこともあり、同時期に春を迎える野菜類が市場にあふれてきた。東京都中央卸売市場統計によれば、今年8月にキロあたり171円の卸売価格だった白菜が、11月にはそこから4割減の104円で推移している状況だ。

 野菜の値下がりを背景に、今月には収穫時期の白菜をトラクターで廃棄処理するという映像が報道され話題となった。

農家が「豊作貧乏」 に陥る理由

 実は、このような野菜の廃棄はコロナ禍以前にも頻繁に行われてきたものだ。直近では、2020年の2月頭ごろにも白菜をトラクターで潰す農家の様子が話題となっている。19年が暖冬であり、20年頭の白菜も今回と同様に出来が良く豊作となっていた。なぜ、このような豊作下で廃棄が発生するのだろうか。

 それは、野菜は、価格の変化に対して需要の変化が小さい品目であることにも起因する。つまり、いくら野菜を安く販売しても人間の胃袋には限界があるため、需要が伸び続けるわけでもない。

 そのため、野菜のような食品は、供給過多になると需要が追いつかず、価格下落を招くのだ。加工品と違って一次産品である農作物は人の手で収穫量をコントロールすることが難しく、とれ過ぎた場合には自らの手で潰すなどして、供給過多を防ぎ、価格下落を食い止めなければならなくなる。この現象を豊作貧乏といい、ミクロ経済学でも研究が行われている分野の1つである。

 このような「豊作貧乏」になりやすい環境のもとで農家が野菜を「廃棄する」か、「出荷する」かという選択のメカニズムは「厚生経済学」という分野からも検討できる。今回は厚生経済学における「生産者余剰」の概念から野菜の廃棄に至るまでの過程を考えてみよう。

生産者余剰

 そもそも、生産者余剰とは、販売価格と販売までにかかるコストを踏まえた価格が、受取許容額(原価や機会費用)を上回っている状態をいう。つまり、仮に収支が額面でプラスになったとしても、例えば時給換算で20円になるような収入しかもたらさない場合は、その業務に労力を割くことは効率的ではない。この場合、何もしないか、他の業務を行う方がよいと考える売り手が多いだろう。

 今回の白菜農家の事例を考えてみると、確かに白菜の価格は大幅に下落しているものの、売却さえすれば一定の対価は得られるはずだ。しかし、一玉あたりの利益が数円といった場合、労働にかかる機会費用は小さくなるといえる。仮にいくらかで売れたとしても、受取許容額を下回っている以上は、農家の生産者余剰はマイナスであり、市場に出荷しないという選択となる。そもそも、箱詰めして輸送するための原価で赤字になってしまうようであれば、市場に出荷することを選択するものはいなくなるだろう。

 「野菜を廃棄する」という結果だけをみると、消費者としては「廃棄しなくても売ってくれたら買いたい、売ってくれなくても潰すことはない」という思いが生まれるはずだ。

 しかし、余裕がある場合であればまだしも、廃棄によって今季の収入が期待できず、経営が苦しい農家であれば余剰分を近所に安価で販売したり、周辺施設へ寄贈したりといった対応に多くの手間をかける余地は小さい。むしろ、来季のために作付開始しなければ死活問題となってしまう。

 このような価値判断が働いた結果、消費者にとっては一定の需要があり、市場で価格を有するはずの野菜が処分されることになるのだ。

消費者余剰

 ちなみに「廃棄しなくても売ってくれたら買いたい」という消費者の感情も厚生経済学上では真っ当な感情だ。これは生産者余剰の対極の概念である「消費者余剰」という概念から確認可能だ。

余剰分を近所に安価で販売するのも難しい。イメージ(写真提供:ゲッティイメージズ)

 消費者は、消費者がそのモノに対していくらまでなら支払えるという「支払い許容額」が価格を上回っていた場合には、消費者余剰がプラスとなる。今回は、野菜が値崩れしており、例年よりも安くなっているため、そもそも価格面で消費者余剰がプラスになりやすい環境にある。問題は、消費者は「その値段だったら買う」場合であっても、農家は「その値段だったら売れない」ということなのだ。

 フードロスや食料自給率といった諸課題が山積しているなかで、このような農作物の廃棄問題は一見するとその流れに逆行する行いにも見える。しかし、外食や小売における上記のような問題と比べると、こと農作物については人の手によるコントロールが難しいことで、価格の安定化の最終手段として「廃棄」という選択を余儀なくされていることを十分留意しておく必要があるだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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