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スーパーの一角で育つ野菜を、直接レジへ。人と野菜の距離を縮める、都市農業プラットフォーム - ギズモード・ジャパン

“農業”と言われて思い浮かべるのは、広大な敷地でせっせと腰を曲げて野菜を手入れする人と土。それと今だったら、気候の影響による価格変動。

でも、これからはそういったステレオタイプが変化するかもしれません。というのも、今、デンマークやフランス、ドイツ、英国、米国、ルクセンブルク、スイスといった国では、スーパーの一角にモジュール式栽培ユニットが置いてあって、その中で水耕栽培された野菜を消費者が自分で刈り取って買うシステムが流通しているのだそうです。そして、今年から日本の紀ノ国屋でも同じサービスが提供されるようになるんですって。

このシステムは、ベルリン発のスタートアップ「Infarm」が打ち出した都市農業プラットフォーム垂直農業だから広大な敷地なんて必要ありませんし、従来の農業と比較しても使用する水の量は95%もカット肥料75%、店舗内や流通センターにそのまま置くことができるので輸送コストだって90%削減できるんですって。

なんだかメリットだらけですが、本当にそんなにすごいのでしょうか? ネイチャー大好きな中川は、「農業がテック化されると自然に対するリスペクトが減るのでは?」なんて心配も、頭をかすめます。

ベルリンのイノベーティブテックカンファレンス「Tech Open Air」の日本開催に合わせて来日していたInfarmの創設者のひとり、エレズ・ガロンスカ氏に、そんな率直な疑問をぶつけてみました。

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Photo: TOAワールドツアー東京

──Infarmの水耕栽培でできた野菜の味は変わりますか。

エレズ・ガロンスカ:変わりますよ。すごく美味しくなります。なにせ新鮮ですし、リサーチを重ねて完璧な味の野菜を作る努力をしています。野菜を育てるというより、完璧な野菜を作りあげると考えてもらえるといいかもしれません。自分たちはすでに画一されたシステムを持っていて、事業開始前の莫大な投資の必要がありません。そのため、味や歯応え、栄養面といったあらゆる面を包括したR&Dに時間をかけることができるのです。

──Infarmは段階的に取り扱いの野菜を増やしていくそうですが、今は葉物野菜65種類に限定していますね。それは根菜類は難しいからでしょうか。

エレズ・ガロンスカ:今でも根菜を作ることは可能ですが、ローンチしていないだけなのです。まずはハーブから始めて、次にサラダなどに使う葉物野菜をローンチさせました。今後はキノコ類、唐辛子やトマトなど、根菜類、きゅうりやイチゴといった順番で展開していく計画です。ただ、国際展開していくならシンプルにしたほうがいいので、今はハーブ類に集中しているだけなのです。

──欧米ではハーブがよく使われますが、日本ではそこまで需要がないのでは。実際、うちの地元ではハーブの取り扱いはありません。日本ではどんなハーブを取り扱う予定なのでしょうか?

エレズ・ガロンスカ:自分たちの調べでは、Infarmの野菜が扱われるお店ではバジルやタイム、ミントといったハーブが少量ですが売られています。ただ、そういったハーブ類に加えて、水菜クリスタル・レタスといったサラダ用葉物もカタログに加えます。消費者のニーズに合わせて扱うアイテムをカスタマイズできるようにします。日本ではブロッコリースプラウトの需要が高いようです。

平石郁生(Infarm Japanマネージングディレクター):現時点では日本で具体的にどんな野菜を扱うかは決まっていないですが、ミックスサラダをはじめとする日本人の求める野菜を取り扱う予定です。

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──Infarmが日本上陸するうえで、難しかったことはなんですか。

エレズ・ガロンスカ:時間場所ですね。日本ではすでに垂直農法が行われています。僕らが「垂直農法をしたい」と言っても、「すでにLEDを使った垂直農法はやっているよ」と言われてしまいました。しかし高品質とは言えなかったため、自分たちのプロダクトが優れているということを証明する必要がありました。それに時間が掛かったのです。

場所も問題ですね。スペースが限られていますし、人々はそのスペースを巡って競い合っています。東京のようなメガシティでは、どこに、どのように設置するかを慎重に考える必要がありますから。

──自分たちの野菜のほうが優れているという証明をしたのですね。では、Infarmは日本の垂直農法を引き継いでいくのでしょうか?

エレズ・ガロンスカ:引き継ぐとか、乗っ取るとか、そういうことではありません。ただ、自分たちは違う形のサービスを確立しようとしているだけです。食はひとつの会社が供給しているわけではありません。いろんな会社が東京の人たちに食を提供しようとしています。自分たちは、ひとつの農業の形としてサービスを提供したいのです。

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──では伝統的な作り方をしている農家の人たちと揉めると言ったようなことはなかったのですか。

エレズ・ガロンスカ:ありません。スーパーやデパートといった取り扱う側が彼らと取引をやめるなんてことになれば大変ですが、それは自分たちと農家さんたちの間の問題ではありません。なので、自分たちが新たに参入することで、古くからの農家さんたちと揉めたりすることはありませんよ。

──今はBtoBですが、Infarmをサブスクする形で、将来的に私のような農業素人が家の一角で農家を始められるようになるのでしょうか。

エレズ・ガロンスカ:できますが、やらないと思います。個人レベルでの導入を可能にしてしまうと、アパートやマンションの部屋にシステムを運び込むなんてことになってしまいますし、管理するのが大変になってしまいます。それに、小さいと言っても10畳の部屋に置けるようなサイズではありません。BtoBtoCになったとしても、個人レベルではなく、建物の地下だとか、倉庫だとか、コミュニティベースになるでしょう。そして直接野菜の成長を直接見に行くとかではなく、スマホ越しにチェックするスタイルになるでしょうね。

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──南極の昭和基地では野菜不足を補うために水耕栽培をしているそうです。Infarmは南極にもサービスを提供できると思いますか。

エレズ・ガロンスカ:もちろんです。自分たちのターゲットはあくまで大都市なので、南極は主要なサービス提供先ではありませんが、南極でも砂漠でも可能です。ただ、そういったところではすでにフードソースがあるので、自分たちである必要性は感じていませんね。


最後に、かつては農家で自給自足生活をしていたというガロンスカ氏に、人間が食をコントロールすることで起こり得る倫理的意識変化について質問してみました。

──人が食をコントロールできるというメリットがある一方、便利になることで自然に対するリスペクトを失う可能性も考えられませんか。

エレズ・ガロンスカ:自分は田舎に住んで、野菜を育てて暮らしていましたが、都会に来て垂直農法をしているからといって自然に対する敬意を失ったかといったら、まったくそんなことはないと思っています。むしろ、野菜が育っていく様子を観察することで、より一層自然に対する想いを深めています。野菜が近くにあるということは、それだけ相互関係を深めることになります。

今の若い子に、「野菜はどこからくるの? 」と質問すると「スーパー」と答えるんですよ。そりゃ、トラックでスーパーに運ばれてくるところまでしか見ていないので当然です。牛乳も箱から出てくるものであって、牛のお乳だと関連づけて考えられない子もいます。育つところを見ないから自然への尊敬の念が減ってしまうのです。目の前で育てば、その分愛着が湧き、自然を愛する心も育まれます。

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──確かにその通りですね。私たちは肉を食べますが、そこに命を感じることはあまりないと思います。命をいただくということで「いただきます」という言葉を言いますが、本当に命をいただいていると実感している人はほとんどいないかもしれません。

エレズ・ガロンスカ:そうなんです。その昔、肉が屠殺場で処理されなかった頃は、自分たちで狩りをして捌かないといけませんでした。滅多に食べられないものだったのです。でも、今、私たちは動物が殺されて解体される部分を目にしないので、感覚も徐々に麻痺して、肉を毎日だって食べることができます。でも、自分で捕まえて食べなさいと言われたら、どれくらいの人が肉を食べられるでしょうか。


Infarmの野菜は消費者の目の前で育つから、命のありがたみを感じられる…。私が心配していたこととは真逆で、むしろ、テックが私たち人間の麻痺した心を正常にしてくれるのかもしれない、と思いました。実は正直な話、お話しする前は失礼な質問かとも思っていましたが、聞いてよかったです。

都会の人が農業を経験したいなら、足を伸ばして農業体験をしたり、借り農園で週末に野菜作りをしてみるといった手もあります。しかし、思ったより時間がとれなかったり、面倒になってしまったりして続かない場合もあるでしょう。Infarmの野菜なら、取り扱い店舗にいくだけで水耕栽培に触れることが可能です。小さい子供に自分で食べる野菜を選ばせれば食育にもつながるし、味も美味しいなら言うことなしですね。

まずは紀ノ国屋での扱いになりますが、2021年からはさらにシェアを広げていくとのこと。農業が身近に感じられるInfarm、私の地元スーパーにもぜひ進出してほしいです。

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Photo: TOAワールドツアー東京

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March 10, 2020 at 05:00PM
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